なにか新しいことを始めるのにちょうどいい月。
せっかくだから、と身を乗りだしてみる。快い風を感じる。
今日は、いつも欠かすことがなかったシュガーとミルクを入れないままで、コーヒーを飲んでみることにした。ブラックコーヒーだ、苦い。
苦かった。でも、他にも思えたことがあった。
もうすっかり鼻に馴染んでいた、ごりごり、こぽこぽの過程のなかで踊りだすコーヒーの香り、あの香りの味がしたんだよね。
いつも吸い込んでいるあの苦い空気を、舌で味わっているような。
美味しいものが放つ良い香り。当たり前のことだろう。
だったら良い香りを放つものは、美味しいに決まってる。みたいなのは屁理屈でしょうか。
ぼくにとってそれが、正当な理屈としてまかり通るくらいに、コーヒーの香りは好きだったし、そんな香りを放つブラックコーヒーそのものを好きになれないはずがなかったんだ。
苦かった。でも、美味しいと思えた。
ブラックで飲むのが大人でかっこいい、そんな発想自体が子供じみているのかもしれないけれど、ぼくはぼくなりに子供なりに、憧れていたかっこいい大人に近づいていきたい。
シュガーにもミルクにも別れを告げた。
ほら、かっこよくないかい?
文と絵 山本こう太