こう太のコーヒーとか

28 素晴らしすぎる世界のなかで、僕は

僕が何も産み出さなかったところで、世界は、僕を楽しませてくれるものでとっくに溢れかえっている。
充実した世界を消費しているだけで、楽しく円満に、この人生は終わってしまえるのかもしれない。
それを憂うことすらなく、幸せに閉じていった命が、どれだけあったことだろうね。

それでも僕は、作りたい、と思いました。
街に出れば、美味しいコーヒーもおしゃれな空間も、いくらでも用意されていたし、そういうものに触れているだけでも、かっこいい僕は映し出せたと思う。
それでも。

どこか、僕は、自分の脳みそや手足のことを、ものすごく信用しきっていた気がする。
傲慢だけれど、自分が創り出したもののことをやっぱり一番かわいいと思っていて、優れていると思っていた。
世界が用意してくれている、ありったけのコンテンツなんかよりも、僕が手がけるものの方が、ってこっそりと思いこんでいた。
それは、好きの度合いが大きかったというだけのことなのかもしれないけれどとにかく、好きなものを好きすぎるあまり、自分の手で、より良く、作ってみたいという気持ちは収まらなかった。

28 素晴らしすぎる世界のなかで、僕は 一生を容易く幸せに過ごせてしまえるような世界のなかで、僕は、何ができるだろう。何を産み出せるだろう。
どんな音を、どんな方法で、響かせることができるだろう。
やっぱり僕は、僕だけの、この声のことが好きだ。

文と絵 山本こう太

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