こう太のコーヒーとか

42 ミルが壊れた。

きょう、ミルが壊れた。
ごりごりという音がしなくなった。取手をひたすらに回しても、からからからから、と虚しさがめぐる。壊れている。

そういえば、ミルを含めたコーヒーの器具がマスターから送られてきて、一年が経つなあ、とゆっくり気が付く。
六角形の棒部分に六角形の穴をさして、ごりごりするんだけれど、よく見たら、六角形の角が削れに削れてしまっていて、もうほとんど丸くなっていた。
そりゃそうだ、一年のあいだ、毎日毎日ごりごりしていたんだから。

42 ミルが壊れた。 いつか壊れてしまうものだ、ということを、すぐに忘れてしまうから、ぼくはきっとバカのままだ。
身の回りのあたたかなものすべてが、まるで、永遠にあたたかく在り続けてくれるような気がしてしまう。
信じている、という感覚がつまりこういうことなのかもしれない。
ずっと一緒、は空虚でしかないと頭で描いてはいるものの、やっぱり、ずっと一緒でいる気満々でいてしまうよ、信じてしまっているし、だいすきなのだから。

そうやって過ごす時間がほとんどで、失う準備なんていつだってできていない。
壊れてしまったあとになってからやっと、やっと感情があふれだしてくる。思い出を、思い出すことができる。
今更だけれど本当にありがとう。毎日毎日、たくさんありがとう。
そして、おやすみなさい。

文と絵 山本こう太

×
sp
美味しさのヒミツ
sp
自家焙煎.com耳寄り情報
>