どこか、今を生きる気になりきれない。
今という時間が、未来のための糧としか思えなくて、成功も失敗も、幸せも苦しみも、一粒の経験値としてしか消費する気になれなかった。非情だ。
未来のなかに見据えている本命、最終的に帰り着きたい場所。
ほんとうに愛すべき存在が自分の中にしか存在しないことを知っていて、他人を愛している。
そうやって他人を過去にする。
この瞬間のために今まで生きてきた、そう言える瞬間、きっと僕は死んでいる。
死という結果を前に、すべての経験は過程にしかならない。
天国を作り上げるためだけに今を体験している。
今この瞬間、この幸せに身を投じるなんて勿体無いし、本物の天国はもっと先にある。
今この瞬間、この苦しみを嘆きわめいている場合じゃないよ、本物の天国に出会うために。
この世のすべてを、この時空のすべてを喰い物にする。
最上の愛が何か知っていて、その上をもうすでに思い描いてしまっている。
文と絵 山本こう太