細かく挽いた豆を、氷に向かってじっくりと、じっくりと淹れる。
ぱきぱきぱき、と音が鳴る、温度と温度がぶつかる音。
いつのまにか夏は、その一角を見せてくれていて、ぼくはというと、あたりまえのように、美味しいアイスコーヒーの研究に勤しんでいた。
冷たい、というだけで本当は美味しいよ。
そしてすぐに飲み干してしまう。
氷はまだ、形のままでいてくれているから寂しい。
すこしだけ残ってしまった、拾いあげることのできないコーヒーは、氷を溶かしながら時間をかけて透明に近づいてゆく。
ひとつひとつの事実が、瞬間、刺さってくる、そして次の瞬間にはもう、忘れている。
溶けていった温度がどこへ行ってしまったのかなんて、考えることはない。
ただ、美味しかったと一言、夏が好きになるね。
瞬間、通り過ぎてゆく景色も、ていねいにほどけば物語だ。
たくさんを見せてくれる、感じさせてくれる。
アイスコーヒーは、美しいね。
文と絵 山本こう太