こう太のコーヒーとか

61 過去回想

思い出す必要がない、じぶんには体があって、そこに腕も足もくっついている、歩くし、ごはんも食べる、会話をする、毎日を積み重ねながらいろんな体験に、命が肥える。
記憶は具体的でないから愛おしく、尊いね。
1秒はかんたんに砂になる、きのうはもう冷えて固まり、つぎの命の足場になった、今ぼくが生きているという事実だけが今日で、それ以外のぜんぶは、過去というまた別の世界。
記憶は空気だ、吸っても吐いても、あんまりよくわからない。

61 過去回想 こうして部屋で寝転んでいると、僕の命が、より曖昧になっていく気がして、ふと眠くなった。
ここはきっともう、過去。
朝も昼も夜も、おなじ顔をしている、なにか大切だったかもしれないもののことを思い出して僕は、泣いている、眠る。
僕の知らない僕が、これからの僕を作っていってくれるから、安心して僕は、ここに残る、いつかまた、と唱えたきり、さらさらと溶けてゆく、僕はさっきまで、あんなに熱かった光。

文と絵 山本こう太

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