こう太のコーヒーとか

80 苦い苦い飲み物。

コーヒーを飲んでいるときくらいは俯瞰で、じぶんのことを眺めていてもいいとおもうので、ついついひとり、じぶん自身と向き合ってみたり、過去や未来、いまのじぶんについて、おもい巡らせてみたり、しがちだ。
コーヒーが苦い苦い飲み物でよかったな、とおもいます。おかげでぼくはまた、悩んだような顔をしているし、その瞬間きっと、ほんとうに、悩んでいるのでしょう。

嫌なことは嫌、と言いたいし、したいことだけをしていたい、なりたいじぶんにしかなれないのだから、要らないものはぜんぶ捨ててしまえばいい。
じぶん以外はじぶんではない、あたりまえのことがたまにわからなくなる。頭のなかのじぶんは、じぶんにいちばんそっくりな他人で、見間違えては苦しい、見間違えては寂しい、じぶんは実はそこらじゅうにいるんじゃないかって錯覚、いろんなものに同時に頷いている。

80 苦い苦い飲み物。 コーヒーを飲んでいるとき、べつにテレビも見ない。スマホも、触らない。ここにひとり、じぶんがひとりだけいるのがわかる。わかるというのは、実感する、ということ。
コーヒーが苦い苦い飲み物でよかった。
ゆっくりと長い時間をかけながら今日もぼくは、じぶんにしかなれない。なりたいじぶんにしかなれなかった。
そういう確認作業のことを、悩む、というのかもしれません。
コーヒーはほんとうに、悩ましい飲み物だ。

文:山本こう太 絵:kaori

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