こう太のコーヒーとか

36 一方通行です。

例えば、淹れたてのコーヒーの美味しさを知ってしまったばかりに、大量生産で作られる安い缶コーヒーが飲めなくなってしまうような、そんなことには絶対になりたくなかった。
なにかを手に入れれば、一方でなにかを失ってしまっているのかもしれない。
だけどぼくはわがままのままに、そんなのはいやだ、と言った。

知ることで、ひとは成長できるけれど、それを知らなかった頃の無垢なじぶんをひとつ失ってしまう。
成長なんてものはいつでも一方通行で、進んでしまえばもう帰ることはできないどころか、振り返ってみたところで暗闇だ。
あの頃のじぶんをじっくりと想像することはできても、あの頃のじぶんはもうどこにもいないし、あんなに大切だったあの頃のじぶんを失ってまでして、この成長という言葉でじぶんは本当に大きくなれているのだろうかとさえ思うよ。
36 一方通行です。 たくさんを知っている人間ほど、無知な状態というものに対しての無知が進行してしまっているね。
これじゃ、成長ってなんなのか、もうわからなくなる。

だからぼくは、ぼくのままでいたくて、背伸びをしている。
大きくなんかなれなくてもいいから、すこし上の世界を覗き見するように背伸びをしてたいのです。
そしてすぐにまた、いつもの目線に戻るんだ。
どんなに美味しいコーヒーを知っても、ぼくはやっぱり、缶コーヒーにほっこりと落ち着いている。

文と絵 山本こう太

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