こう太のコーヒーとか

33 なれなくて、でもなりたくて

夜にしか見えない花があるのなら、出逢ってみたいがために夜にまぎれこもうと必死に眠らない。
早寝早起きが習慣になっているせいで、まだ見ぬ何かを見落としてしまっているかもしれないだれかは実はたくさんいて、ほんとうの夜の意味を知らないまま、美しく眠っている様子は綺麗にもほどがある。
だったら僕は、世界の闇に呑みこまれるように、あの花の香りに涙を預けたいと思うよ。

みんなそれぞれの苦労を体験していて、それぞれの特別を体験していて、人生を編みこんでいく。
お金持ちの人は羨ましいけれど、当事者たちしか感じていない憂鬱だって必ずあるはずで、彼らは逆に、貧しくも幸せそうにしている人間を見て羨ましいと思うかもしれない。
それでも同様に、貧しい暮らしに伴う苦しみだってあるはずだから、結局だれもが、隔離された自分の人生しか生きれないのだなあ。
お金持ちになってみないと感じることができない憂鬱をこの身体に起こしてみたくて僕はお金持ちになりたいと思っていたし、お金なんかなくても幸せって言える暮らしの裏にどんな苦労があるのかを知りたくて、お金なんか要らないって本気で思った、だから僕は欲張りにすべての状態に憧れていて、でもなれなくて、でもなりたくて。
そういう僕の好奇心の向こう側で、みんなそれぞれの人生を体験している、それだけで他人は尊い存在です。
33 なれなくて、でもなりたくて みんな、素敵な花を握りしめているようにしか見えないよ。

文と絵 山本こう太

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