こう太のコーヒーとか

65 思い出とかぜんぶ

冬はさむいくらいしか言うことがなくて、つい安心してしまう、毎年違った運命をぼくたちはちゃんとゆくのだけれど、どれだけ心や身体を飾りたててみてもやっぱり、じぶんはじぶんにしかなれない、じぶんという運命を知らない間にとても、愛しているから、今年も冬がこんなにさむい。
言葉は他人に向かっているようで空に吸いこまれていく、目にうつるすべては、目にうつることのなかったすべてを教えてくれて、それは寂しさやすこしの罪悪感かもしれないし、ただの季節だったかもしれない、冷えた空気のなかで思い出も、今をつくる感情も、ごちゃまぜだ。
ぼくもまた、空に吸いこまれていく言葉にしかすぎない。

65 思い出とかぜんぶ ぼくがぼくを忘れないかぎり、空は、さむさは続くし、どうせまた来年も、おなじ夢を空想している。
春や、夜とは違った顔をして、変わらないでいてくれそうなものばかりを数える、これから迎えてしまう夜明けを前に、なにも答えを持たないまま、ゆれたまま、じぶんの身体よりも大きくて広い世界のことを信じたまま。
唱えるように、さむいね、と愛の言葉を交わすとき、きっとぼくはここに立ち止まることができているのだから。

文と絵 山本こう太

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